恋をしたら鬱が消えた話(後半)
で、彼女の家にあがった。ふつーのアパートだ。
洋室というだけで、ユニットバスだし俺んちと大差ない。
傘をさして、5分くらい歩いただけなのに靴下はぐっしょり、ジーンズも重くなっていた。
彼女は、これ着れるかなーとかいいながら、高校のジャージやらテニスのウェアを出してくれた。
「ありがとう」と言いつつ、もじもじする。
「あ、シャワー浴びなよ、風邪ひくから」
はぁ?何お前ビッチなのと思いつつ、でも男物の服が出てこなかったあたりに喜んじゃったりして、おっかなびっくりシャワーを浴びる。
彼女も化粧を落とし、俺のあとにシャワーを浴びる。
浴室乾燥機で俺の服を乾かしながら、なんか不思議な気分になる。
彼女は「お腹すいたー?」とか言いながらキッチンに向かう。
彼女はすっぴんでメガネをかけて、短パンから生足を出している。目の周りの化粧がなくなったことで、二重がよく見える。
んー、とりあえずビールでもあったら嬉しいけど、ないよね?
「お酒?あっ、そうだ君へのお土産があるんだった!」そう言って、フランスのワインを出してくれた。俺へのお土産?
ワインに合いそうな軽食を作ってくれて、ふつうに飲み始める。
一緒に飲むの初めてだね、ウチに男の人がいるなんて変な感じ、明日休講になんないかなーとか話しながら、楽しかった。
今までのちょっと空いてた溝がどんどん埋められていく。
生まれてから今に至るまでのすべてを語り、とりとめのない話に耳を傾け、お互いを知り合う。
話したいことが止まらなくてあっという間に深夜になる。
「泊まってく?」
へ?朝まで飲めばよくね?ってそんな発想、女の子にはないのか。
食器を片付け、寝る準備にかかる。
ふあー、とか言いながら超不自然に挙動不審な俺。
布団は一組しかない。あ、俺床で寝るよ。
「大丈夫、この前、妹と二人で寝たけど余裕だったよ」
えええええええええええええええええええええええ
一緒にベッドで寝るんか。お前はやっぱりビッチだ。
オーケー。でも俺は睡眠薬なしで眠ることはまずないから、彼女を寝かしつけてすぐにベッドから出よう。そんで、雨が止み次第さっさと帰ろう。うん。
布団に入り、灯りを消しても会話は続いた。
彼女は急に俺に感謝し「今日は最高の一日でした」と言って泣いた。
どどど、どうした???
「好きなんです」
ふぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
頭が真っ白だ。
なんでだよ、お前は俺を、何も知らない、お前は、だいたい、どうして…
そうだ、俺は、
俺は鬱なんだ。
知ってる。
図書館で鬱の本読んでたでしょ。
えええええええええええええええええええええええええええええええ
あああ、ああ。何も言葉が出ない。
「ユングとか、面白かったよ」
てかお前、ストーカーか。
「違うよ!耳をすませばが好きなの。へへへ」
じゃあ、図書館でずっと俺のこと狙ってたのか。
「そんなんじゃないけど…何読んでるのかなーみたいな」
はあ。
「でも、あたしが支えるし。君もあたしを支えてくれるから」
うん。
こいつには全部をオープンにしていいかもしれないと思った。
次の日、学校は休講にならなかったけど、二人でサボってカップルになった。
それ以来、ほとんど心療内科には行かなくなった。薬を飲まなくても落ち着く、笑える。学校も仕事も楽しくなり、イケイケドンドンになった。
こんな普通の話を読んでくれてありがとう。
でも鬱は再発しちゃうし、俺は人生をゴロゴロと転がり落ちていく。