人の感情って伝染しちゃうよね。鬱が伝染ったときの話
彼女ができたら鬱が治った。気づいたら1年以上診療内科に行ってなかった。
もう全部終わったと思っていた。
その頃、俺はサークルのリーダーになって、50人くらいの後輩をまとめるようになった。毎日のように人間関係のトラブルが発生しては、俺が問題解決に当っていた。
俺自身、パワハラをして鬱になった経験から、誰もが被害者加害者になりうると考える。
悪いことをしたヤツが逆に非難されて鬱になるし、当事者はなんとも思ってなくても、見てた第三者が気分を害することもある。
だから、サークル内でAとBがケンカしたときには、どっちが悪いとか言わずに双方の意見をしっかり聴いて絡み合った糸をゆっくり解いてやった。
そして第三者のCやDにも理解を求め、みんなで問題を解決していった。
俺は天才だと思った。
将来は最高のマネージャになれると思っていた。
そんなとき、カオリ(仮)がパニック障害だということを知る。
授業中だろうと何だろうと、カオリに呼び出されたらすぐに駆けつけた。
マジでいつ自殺するかわからんタイプの子だったからだ。
4号棟の屋上で泣いている。
言葉は通じない。意識が朦朧としている。過呼吸を起こしている。
俺はこいつと出会ってからハンカチを常備するようになった。
過呼吸を抑え、タイミングを待ち、ゆっくりと言葉を吐かせる。
そうか、不安になっちゃったんだな。でも大丈夫だ。カオリの居場所はしっかりあるじゃないか。手首はオロナインを塗ってしっかり包帯を巻いておきなさい。
俺にとって、カオリはタスクのひとつでしかなかった。
他にもバイトやら彼女やら授業やらサークル運営やら、いろんなことをやっているんだ。カオリは手がかかるメンバーの一人でしかない。
でもだんだんと、カオリに費やす時間が増えていった。
当たり前なんだけど、人間の関係性には限界がある。100人の友達と遊ぶのは無理だし、2人くらいなら濃密な超親友になるだろう。仕事を頑張りすぎると家庭のことがおざなりになる。人間関係も所詮、リソースの配分なんだ。
深夜に電話が鳴る。ああ、また切っちゃったのか。こらこら。今家か?親御さんいるか?死にたいなんて言うなよ、落ち着くんだ。ハンカチあるよな?
ふう。
あるとき俺は、包丁と一緒にお風呂に入る。
100均の包丁ではなかなか俺の身体に傷がつかないことを知る。でもなんか、もうズブズブザクザクやりたくなる。よお、俺の身体は頑丈だなあ、おい、ちくしょう!!
煙草を吸い、ウィスキーをやる。ああ、そうだ、睡眠薬がまだあったんじゃないか?
俺は、残っていた睡眠薬を全部一気にウィスキーで飲み干す。
どうしちゃったんだ。明日もいっぱいタスクがあるのに。俺は走り続けなくちゃいけないのに。俺には責任があるんだ。甘えてちゃダメだ。ちくしょう!!うああ。
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泣いている彼女と、初めて救急車に乗せられる自分の身体を認識する。
なんだ、何が起こってんだ。
俺は精神病院にぶちこまれる。